日本製のSaaSのデータをSalesforce、HubSpot、Tableauにクイックに繋げて活用したい。なぜそれが難しいか。
DX推進の流れの中で、多くの企業が業務効率化のためにSaaS(Software as a Service)の導入を積極的に進めています。freee会計やマネーフォワード、SmartHRなどの日本製SaaSも業務で広く利用されるようになりました。
我々は現在の受託開発の事業で、Salesforce、HubSpot、Tableauなどのグローバル展開している海外SaaSの導入に多く携わっています。これらの状況から、「日本製SaaSに蓄積されたデータを、グローバルSaaSと連携させて活用したい」というニーズは以前から頻繁にある状況でした。
例としてfreee会計であれば、具体的なユースケースとしては下記のようなものです。
- freee会計で管理している財務データをTableauで視覚化し、経営判断に活用したい
- freee会計を元にした離反顧客データを、DWH経由ではなく直接HubSpotに連携してリテンションを促すメールを自動で発信したい
- freee会計の外注費データを、DWH経由ではなく直接Salesforceに連携して、PJ原価管理を行いたい
これらは、ビジネス上非常に価値のある活用方法です。しかし、このデータ連携には、いくつかの大きな障壁が存在します。
本記事では、これらの課題と、Praztoが提供するETLサービス「Passwork」を活用した解決策について詳しく解説していきます。300社を超える受託開発の実績から生まれた「つながるETL」Passworkが、いかにしてこれらの課題を解決するのかをご紹介します。

難しい点① 日本製のSaaSに対して、直接接続できるコネクタが無い場合が一定割合で発生する。

日本製SaaSとグローバルSaaSを連携する際の最初の障壁は、「直接接続できるコネクタの不足」という問題です。
Tableauなどのグローバルに展開しているSaaSでは、多くの場合、APIを通じて他のシステムと連携するためのコネクタが提供されています。しかし、これらのコネクタは主にグローバル市場で広く利用されているSaaS向けに提供されているのが現状で、日本国内でのみ展開している日本製SaaSに対しては対応していないケースが多いです。
このギャップが、データドリブンな意思決定を行うシステムを構築する上での大きな障壁となっています。データは存在して活用するSaaSがあるにもかかわらず、それを繋ぐための仕組みが存在しないという状況により、データの活用が進まないといったケースを多く見てきました。
難しい点② 個別のプログラム開発での構築では高額になってしまう。

コネクタが標準で提供されていない場合、次に考えられる選択肢は「カスタム開発による連携」です。しかし、この方法には大きなコスト上の課題が存在します。
個別のプログラム開発によるシステム連携は、とても多くの費用がかかります。
また、初期開発費用だけでなく、APIの仕様変更に対応するための保守費用も含まれます。ビジネス環境の拡大や変化により、一度開発した連携システムも定期的なメンテナンスが必要となり、継続的なコスト負担が発生します。
さらに、開発には時間もかかります。要件定義から本番稼働までに3〜6ヶ月かかることも珍しくなく、ビジネス環境の変化に素早く対応したいという要求に応えられないケースも多々あります。
このように、個別のプログラム開発による連携は技術的には可能でも、コストと時間の面で大きな障壁となっているのが現状です。
難しい点③ 連携に対応できるETLサービスがあったとしても、DWHを構築するなど大規模な仕組みを設けずにクイックに安価に構築したい場合も多い

前章までの課題を解決する手段として、ETL(Extract, Transform, Load)ツールの利用が考えられます。実際、市場には多くのETLツールが存在し、日本製SaaSにも対応しているものも存在します。
しかし、従来のETLツールを活用する際にも、以下のような新たな課題が浮上します。
DWH(データウェアハウス)の構築が前提となるケースが多い
多くのETLツールは、「複数のシステムからデータを抽出し、中央のデータウェアハウスに集約した上で、そこから各システムにデータを配信する」というアーキテクチャを前提としています。
このアプローチは優れた構成だと考えていますが、求められるシステムの規模やお客様の社内の運用体制によっては、そのような大掛かりなシステムを構築しない方が好ましい場合も少なくありません。
- DWH構築の初期コスト: データウェアハウスの設計・構築には専門知識と追加コストが必要
- 専門知識の要求: 社内にSQLやデータモデリングなどの専門知識があるリソースがないと使いこなせない
- 複雑な設定画面: 直感的でない操作性により、設定や変更に時間がかかる
- オーバースペック: 単純な連携需要に対して過剰な機能と複雑さを持つ
- 段階的導入の難しさ: 小規模な検証から始めて徐々に拡大していくアプローチが取りにくい
- 初期投資の大きさ: 最初から大きな投資が必要で、ROIの見極めが難しい
我々が実施してきたシステム開発の現場では、多くの企業、特にIT部門の規模が限られた組織では、「大規模なデータ基盤構築」ではなく、「特定の業務課題を解決するための、クイックかつ低コストなデータ連携」を求めていました。しかし、従来のアプローチではこのニーズに応えることが難しいのが現状です。
Passworkで直接システムを連携して課題を解決いたします。
これまで解説してきた3つの主要な課題に対して、Praztoが提供するETLサービス「Passwork」は、革新的なアプローチで解決策を提供します。
Passworkは、その名前が示す通り、様々なシステムを「パスワーク」のように直接繋ぎ合わせることを可能にするETL(Extract, Transform, Load)サービスです。300社を超える受託開発の経験から生まれた「つながるETL」として、データ連携における課題を解決します。
以下の特徴をコンセプトとして構築されています。

以下では、実際のユースケースを通じて、Passworkがどのようにして日本製SaaSとグローバルSaaSの連携を実現するかを具体的に見ていきましょう。
freee会計のデータ取得に対する、ユーザーに丁寧な画面設計
以下では、freee会計を例にしたユースケースをご紹介いたします。
具体的なユースケースの詳細に入る前に、まずはfreee会計のデータ取得設定画面についてご説明します。

こちらがfreee会計からのデータ取得設定画面となります。Passworkはビジネスユーザーを主な対象としているため、技術的知識を持たないユーザーでも直感的に操作できるよう、システム全体を設計しています。
freee会計が提供するAPIを介してデータを取得するのですが、APIの内部構造は画面からは隠蔽されており、ユーザーは技術的な詳細を意識することなくデータにアクセスできます。
例えば、PL(損益計算書)を取得する際に特定の勘定科目を指定するケースを考えてみましょう。通常のAPI操作では、勘定科目のIDを明示的に指定する必要があります。「では、その勘定科目IDはどこで確認できるのか?」という疑問が生じますが、これは別途APIで勘定科目一覧を取得し、内部データを精査しなければ判明しません。こうした技術的作業をビジネスユーザーに求めるのは、現実的ではありません。
Passworkでは、次の図にあるように、取得したいデータとパラメータ(勘定科目など)を選択リスト形式で一覧表示しています。ユーザーは内部IDを調査するといった煩雑な作業なしに、視覚的かつ直感的に必要な情報を選択するだけで目的のデータを取得できます。

それでは、freee会計を活用した具体的なユースケースについて詳しく見ていきましょう。
【ユースケース①】freee会計のデータを、DWH経由ではなく直接Tableauに繋いで高度な分析がしたい
課題背景と解決策の要約
多くの中小企業がfreee会計を利用して日々の会計業務を効率化しています。一方で、経営判断や戦略立案には、蓄積された会計データを多角的に分析することが不可欠です。Tableauはその強力な可視化機能で知られるBIツールですが、残念ながらfreee会計との標準コネクタは提供されていません。

この状況の中で、Passworkを使用すれば以下のようなクイックな接続が可能です。

こちらは非常にシンプルな連携例で、
- ①freee会計の取引先一覧
- ②freee会計のPL(損益計算書)データ
をTableau Cloudへ直接連携させています。
Tableau Cloudへデータが格納されれば、あとは通常のTableauダッシュボード構築プロセスと同様に進められます。その結果、下図うな視覚的に優れたPL分析ダッシュボードを容易に作成することが可能になります。

freee会計のPLデータを元にしたTableauダッシュボード
多くの場合、ユーザーが真に求めているのはDWHやデータベース内部での複雑な変換処理といった大掛かりな仕組みではなく、PLデータの分析とそれによって得られるビジネス課題への具体的な解決策です。この観点から考えると、このようなシンプルな連携でも十分なケースは数多く存在するのではないでしょうか。
【ユースケース②】freee会計を元にした離反顧客データを、DWH経由ではなく直接HubSpotに連携してリテンションを促すメール自動で発信したい
課題背景と解決策の要約
次はマーケティングへの活用例です。
顧客維持はビジネスの持続的成長にとって極めて重要な要素です。特に、継続的な取引が前提となるサブスクリプションモデルやリピート購入を基本とするビジネスにおいては、離反(チャーン)の予兆を早期に検知し、適切なアプローチを実施することが収益維持の鍵となります。
freee会計には顧客との取引データが豊富に蓄積されており、これを分析することで「最近取引が減少している顧客」や「一定期間取引がない顧客」を精緻に特定することが可能です。一方、HubSpotはマーケティングオートメーションツールとして、ターゲットを絞ったメール配信などの効果的なコミュニケーション施策を実施するのに最適なプラットフォームです。

このような状況において、Passworkを活用すれば下図のようなシンプルかつ迅速な連携が実現できます。

処理の内容を具体的にご説明します。
まず、freee会計から取引先と直近6ヶ月の売上高一覧を取得し、これらのデータを結合します。この結合プロセスにおいて「結合できなかった」取引先は、すなわち直近6ヶ月間で売上が計上されていない取引先を意味します。これらの取引先に絞り込んだ上で、該当企業の担当者情報をSalesforceから取得し、最終的にHubSpotへと連携する一連の流れをPassworkを用いて構築しています。
この仕組みをマーケティング担当者が独自にノーコードで構築できる点が、極めて重要な意義を持ちます。自社のビジネス課題とその解決策を最も深く理解しているマーケティング担当者が、他部門への依頼や調整を経ることなく、自部門の裁量だけで施策のPDCAサイクルを完結できることは、戦略的に大きなアドバンテージとなります。
マーケティング施策においては、トライアンドエラーを前提としたPDCAサイクルを高速に回転させることが非常に重要です。この観点から、マーケティング部門が独自に施策を迅速に変更・実施できる環境を整えることは大きな競争優位性をもたらします。
Passworkであれば、データの取得設定や変換、連携の構築といった一連のプロセスをマーケティング部門だけで完結させることができ、ITチームへの依頼や調整を待つことなく、迅速にPDCAサイクルを加速させることが可能になります。
【ユースケース③】freee会計の外注費データを、DWHではなく直接Salesforceに連携して、PJ原価管理を行いたい
課題背景と解決策の要約
最後はコストデータの活用例です。
プロジェクトベースのビジネスを展開する企業にとって、正確な原価管理は収益性の確保と適切な価格設定のために不可欠です。特に、外注費はプロジェクトの主要コスト要素であることが多く、その適切な管理と可視化は経営上極めて重要な課題となります。
多くの企業では、会計システム(このケースではfreee会計)で外注費を含む経費を管理し、一方でプロジェクト管理やクライアント情報はSalesforceなどのSFA/CRMで管理しています。しかし、これら2つのシステムは通常別々に運用されており、以下のような課題が生じています:
商談やプロジェクトの売上規模はわかるが、収益性が判断できない
企業活動の本質は利益創出にあるため、追求している商談の売上金額だけでなく、その収益性を正確に把握することが極めて重要です。しかしながら、現場で可視化される指標が受注額や売上金額などに限定されていることから、売上高がKPIとして重視される傾向が多くの企業で見られます。
一方で、どのような案件が高い収益性を持つかを現場レベルで把握し、戦略的に案件を選別するプロセスが形骸化している企業も少なくありません。
この課題を解決するためには、Salesforceなどの営業担当者が日常的に使用するツール上で、収益性が適切に管理・可視化されていることが不可欠です。

Passworkを活用すれば、freee会計で管理されているコストデータをSalesforceの商談データに関連づけて登録することが可能になります。これにより、Salesforceに蓄積された過去の商談データに対して「売上 – コスト = 利益」という収益性の指標を効果的に管理・可視化することができるようになります。

freee会計から取得した外注費の詳細データを、共通のコード値をキーとして関連付け、Salesforceに登録しています。
Passworkの高度な連携機能により、Salesforceの外部キーを活用したUpsert(更新または挿入)処理が可能となるため、既存のデータ構造を踏襲しながら、無理なくSalesforceへのデータ統合を実現することができます。
まとめ
本記事では、日本製SaaSとグローバルSaaSの連携における課題と、それを解決するソリューションとしてのPassworkについて解説してきました。
データ連携における3つの主要な課題 〜「直接接続できるコネクタの不足」「個別プログラム開発の高コスト」「大規模なDWH構築の負担」〜 に対して、Passworkは「つながるETL」として革新的な解決策を提供しています。
具体的なユースケースを通じて見てきたように、Passworkは技術的な専門知識を持たないビジネスユーザーでも、直感的な操作で複雑なデータ連携を実現できる設計となっています。freee会計のデータをTableauで視覚化し経営判断に活用する例、離反顧客データをHubSpotに連携してリテンション施策を実施する例、外注費データをSalesforceと連携してプロジェクト収益性を可視化する例など、さまざまなビジネスシーンでの活用が可能です。
特に注目すべきは、データ活用のためにDWHなどの大規模な基盤構築を必要とせず、必要なシステム間を直接つなぐことで、クイックかつ低コストにデータ連携を実現できる点です。これにより、IT部門への依存度を下げ、各部門が自律的にデータ活用のPDCAサイクルを加速させることが可能になります。
300社を超える受託開発経験から生まれたPassworkが、データは存在するのに活用できていない、という課題を抱える企業にとって、新たなデータ活用の可能性を切り拓くサービスとなることを願っています。