本記事では、Account EngagementとSalesforceを統合して実現する、経営層・CxO向けの「ファネル可視化ダッシュボード」についてご紹介します。
Account Engagement(旧Pardot)とSalesforceを活用し、マーケティングから営業まで一気通貫で運用されている企業様は多いかと思います。しかし、「MAとCRMのデータが分断されていて、ファネル全体を可視化できない」というお悩みをお持ちではないでしょうか。
今回は、ETL/EAIツール「Passwork」およびTableau連携に特化した「Any2Tab」を活用し、このデータ連携の課題を解決する方法をご紹介します。Tableauでファネル全体を可視化するダッシュボードの構築ノウハウをお伝えします。
先に、今回ご紹介する統合分析Tableauダッシュボードをお見せします。以下のようなダッシュボードを活用すれば、マーケ施策から受注までの流れを一気通貫で確認できます。

マーケ施策から受注までの流れを数値で追うべき理由
まず、MAとCRMを統合してファネル分析を行うことがなぜ重要なのかについてご説明します。
多くのBtoB企業では、マーケティング部門がAccount Engagement(Pardot)などのMAツールでリード獲得・育成を行っています。匿名の状態から申し込みまでの各フェーズを管理し、計測値と変換率(CVR)でパフォーマンスを評価しているケースが一般的です。
しかし、一般的にMAで管理できるのは申し込み時点までです。そこから先の受注、さらには継続受注までデータがつながっていないお客様がとても多くいらっしゃいます。この状態では、たとえPVが高くても、ターゲット顧客にマーケティング施策が届いているのか、それが売上につながっているのかがわかりません。

本来、企業が上げたい指標は売上であり、PVは中間指標に過ぎません。売上につながる顧客層に対してマーケ施策が正しく届き、滞りなく受注まで進んでいるかどうかを計測することが重要です。
ここで登場するのがCRMであるSalesforceです。Salesforceは、Account Engagementで管理するフェーズの先にある商談〜受注までを管理し、さらにその後のリピート受注やLTVまでを追跡できます。Salesforceのデータを活用して受注までのファネル全体を可視化することで、的確な経営判断に必要なインサイトを得られるようになります。
ここで「同じSalesforce社の製品なのだから、Account EngagementとSalesforceを連携してTableau等で可視化すればよいのでは」と思われるかもしれません。しかし、実はそう簡単にはいかないのです。
Account EngagementとSalesforceのTableauへのデータ連携における課題
では、Account EngagementとSalesforceのデータを統合してTableauでファネル分析を行う場合、どのような課題があるのでしょうか
課題①:Account Engagementは、Tableauへの直接接続ができない
Account EngagementにはTableauの標準コネクタが用意されておらず、直接接続することができません。そのため、MAのデータをTableauで可視化するには、何らかのデータ連携の仕組みが必要となります。
課題②:Account EngagementのデータはSalesforce連携だけでは取得できない
SalesforceにはTableauの標準コネクタがあるため、「Account EngagementのデータをまずSalesforceに連携し、それをTableauに取り込めばよいのでは」と考える方もいるかもしれません。しかし、この方法も効果的ではありません。
Account EngagementからSalesforceへの連携では、VisitorやVisitor Activityといったデータは同期対象に含まれないためです。当然、Tableauにも連携されません。
その結果、例えばマーケティング施策の分析において重要な「貢献度分析(アトリビューション分析)」を行うことができなくなります。たとえば、メルマガ配信やページ閲覧などを含めた最初の接点(ファーストタッチ)は何か、商談化直前の接点(ラストタッチ)は何か、あるいは線形評価でどの接点が最も効果的だったのか——こうした分析が実現できないのです。
このように、標準コネクタだけでは十分な分析を行うことが困難です。
課題③:DWHなど大掛かりな仕組みが必要になる
Account Engagementに対応した月額制のETL製品を使えば、SalesforceとAccount Engagementのデータをノーコードで集約することは可能です。しかし、多くの場合、裏側にBigQuery等のDWHを設ける必要があります。
顧客の個人情報を扱うため、DWHを設けるとなると企業として厳格に管理しなければなりません。これまでになかった大掛かりなシステムの導入となるため、躊躇してしまうケースも多いようです。
課題④:リアルタイム性と更新頻度の担保
手作業でのデータエクスポート・インポートでは、データの鮮度を保つことができず、経営判断に必要なタイムリーな情報提供ができません。

Passwork(Any2Tab)を活用したデータ連携による解決
これらの課題を解決するために、私たちはPassworkおよびAny2Tabを活用したデータ連携アプローチを採用しています。
Any2Tabとは
Any2Tabは、Tableauへのデータ接続を手軽に実現するためのサービスです。Tableauが標準コネクタで対応していないシステム(Account Engagementなど)との接続が可能になります。直感的な画面操作で、エンジニアでなくても連携設定を行えます。
Passworkとは
PassworkはAny2Tabの上位サービスにあたるEAI・ETLツールです。「システム間のデータを、よりわかりやすい画面で、よりしっかりと連携設定する」というコンセプトで開発されています。Tableau以外への出力も必要な場合は、Passworkをご利用いただくことで、より柔軟なデータ連携基盤を構築できます。

課題の解決について
先ほどの章で挙げた課題がどのように解決されるかを見ていきましょう。
- 解決策①:Account EngagementとSalesforceのどちらにも標準コネクタで接続できる
- 解決策②:Account EngagementのVisitorやVisitor Activityなどの詳細なデータも分析に使用できる
- 解決策③:Account EngagementとSalesforceから直接Tableau Cloudに連携できるため、管理も楽
- 解決策④:1時間に1回の連携が自動で行われるため、施策の結果をすぐに確認できる
頭の痛かった課題を見事に解決できていることがわかります。
データ連携の仕組み
このパッケージでは、以下のようなデータ連携の仕組みを構築します。
- Salesforceデータの取得:Salesforceから取引先、リード、商談、キャンペーンなどのデータを取得
- Account Engagementデータの取得:Any2Tab(Passwork)を経由して、Account EngagementからVisitor、Prospect、メールアクティビティなどのデータを取得
- データの統合・加工:取得したデータを年月やキャンペーン単位で結合し、ファネル分析に適した形式に加工
- Tableauへの出力:加工されたデータをTableauに連携し、ダッシュボードで可視化
大掛かりなシステムを構築せずに、SalesforceとAccount Engagementのデータを連携できる点が大きなメリットです。
ファネル可視化ダッシュボードの構成と使い方
それでは、実際のファネル可視化ダッシュボードの構成要素ごとの使用方法を詳しく見ていきましょう。このダッシュボードは、経営層・CxOの方々が「マーケから受注まで、どこで機会損失が起きているか」を特定するために設計されています。

セグメント別フィルター
ダッシュボードの上部には、商品・都道府県・従業員数などのセグメント別フィルターを配置しています。
商品・地域・企業規模など複数軸でセグメント分析が可能です。これにより、「どの市場・ターゲットでファネルが健全か」「どのセグメントで課題があるか」を比較することができます。例えば、特定の製品カテゴリーでリードから商談への転換率が低い場合、その製品に対するナーチャリング施策の見直しが必要かもしれません。
ファネルKPIサマリー
ダッシュボード上部には、ファネル全体の主要KPIを一列に並べて表示しています。
- Visitor数:Webサイトへの訪問者数
- Prospect数:識別されたプロスペクト数
- リード数:MQLとして営業に引き渡されたリード数
- 商談数:作成された商談の数
- 有効商談数:有効なパイプラインにある商談数
- 受注数:成約した商談の数
- 受注金額:成約金額の合計
さらに、各ステージ間の転換率(Prospect化率、リード化率、商談化率、有効商談化率、受注率)も表示しています。これにより、目標との乖離や前期比較で課題を素早く把握できます。
月次トレンドグラフ
ダッシュボードの中央部分には、各指標の月次推移を棒グラフと折れ線グラフの組み合わせで表示しています。
各指標について、以下の2種類のグラフを横に並べて配置しています。
- 絶対数の推移(棒グラフ):Visitor数、リード数、商談数、受注数など、各ステージの実数を月次で表示します。
- 転換率の推移(折れ線グラフ + 棒グラフ):Prospect化率、リード化率、商談化率、受注率などを月次で追跡します。
この構成により、「施策を実施した月に転換率が改善したか」「季節変動やマーケット変化の影響がどこに現れているか」などをタイムリーに検知することができます。PDCAサイクルを加速させるためには、この月次トレンドの監視が不可欠です。
各ファネルステージの数値低下が示す事業上のボトルネック
ファネル可視化ダッシュボードの真価は、「どのステージで問題が発生しているか」を特定し、「その原因は何か」を推測できる点にあります。ここでは、各ファネルステージの数値が低下している場合に考えられる事業上のボトルネックを具体的にご紹介します。

①Visitor数が少ない・減少している場合
Visitor数の低下は、マーケティングの入口部分に課題があることを示しています。
考えられるボトルネック
- コンテンツマーケティングの効果低下:ブログ記事やホワイトペーパーなどのコンテンツが、ターゲット顧客の検索意図とマッチしていない可能性があります。
- SEO対策の不足:競合他社にオーガニック検索で負けている、または検索アルゴリズムの変更により順位が下落している可能性があります。
- 広告投資の不足または効率低下:リスティング広告やディスプレイ広告のクリック単価が上昇し、同じ予算でも流入数が減少している可能性があります。
- ブランド認知度の低下:市場における存在感が薄れ、指名検索が減少している可能性があります。
改善アクション例
キーワード戦略の見直し、コンテンツのリライト、広告チャネルの多様化、ブランディング施策の強化などが有効です。
②Prospect化率が低い場合
Visitor数は十分なのにProspect化率が低い場合、Webサイトでの「獲得」に問題があります。
考えられるボトルネック
- ランディングページのコンバージョン率低下:ページのデザイン、コピー、CTAボタンの配置などがユーザーの行動を促せていない可能性があります。
- フォームの複雑さ:入力項目が多すぎる、または入力しにくいフォーム設計により、離脱が発生している可能性があります。
- オファーの魅力不足:ダウンロード資料やウェビナーなど、提供するコンテンツの価値がターゲットに伝わっていない可能性があります。
- ターゲティングのずれ:広告やコンテンツが本来のターゲット以外のユーザーを呼び込んでしまっている可能性があります。
改善アクション例
A/Bテストによるランディングページ最適化、フォーム項目の削減、オファー内容の見直し、ターゲティング精度の向上などが有効です。

③リード化率(MQL化率)が低い場合
Prospectは獲得できているのにMQL(Marketing Qualified Lead)への転換率が低い場合、ナーチャリングプロセスに課題があります。
考えられるボトルネック
- ナーチャリングコンテンツの質・量不足:メールシナリオが単調、または顧客の課題解決につながる情報が提供できていない可能性があります。
- スコアリング基準の不適切さ:行動スコアや属性スコアの設計が現実の購買意欲と乖離している可能性があります。
- メール配信タイミングの問題:配信頻度が高すぎて解除されている、または低すぎて忘れられている可能性があります。
- パーソナライゼーション不足:画一的なコンテンツ配信により、個々のProspectの興味・関心に応えられていない可能性があります。
改善アクション例
ナーチャリングシナリオの再設計、スコアリングモデルの見直し、セグメント別コンテンツの作成、エンゲージメント分析に基づく配信最適化などが有効です。
④商談化率が低い場合
MQLは創出できているのに商談につながらない場合、マーケティングと営業の連携、またはインサイドセールスのプロセスに問題があります。
考えられるボトルネック
- MQLからSQLへの引き渡し基準の不一致:マーケティングが「準備完了」と判断したリードが、営業から見ると「まだ早い」と感じられている可能性があります。
- インサイドセールスの対応品質・スピード:リードへの初回コンタクトが遅い、またはアプローチ方法が適切でない可能性があります。
- リードの質そのものの問題:数は獲得できているが、実際には購買意欲やBudget・Authority・Need・Timeline(BANT)条件を満たしていないリードが多い可能性があります。
- 競合との差別化ができていない:リードが複数社を比較検討中に、自社の優位性を伝えられずに離脱している可能性があります。
改善アクション例
マーケ・営業間のSLA(Service Level Agreement)策定、インサイドセールスのトークスクリプト改善、リードクオリフィケーション基準の見直し、競合分析と差別化ポイントの明確化などが有効です。

⑤有効商談化率が低い場合
商談は作成されるが、有効なパイプラインに進まない場合、初期の商談プロセスに課題があります。
考えられるボトルネック
- FSにパスされる商談の質の低下:そもそも商談化されるニーズが無い商談がFSにパスされてしまっている可能性があります。
- 課題の緊急性が低い:「いつかやりたい」レベルの案件が多く、今すぐ解決すべき課題として認識されていない可能性があります。
改善アクション例
IS段階でBANT・緊急度・決裁・期限が揃わない案件はナーチャリングへ戻し、商談化条件を明文化してFSへのパス基準を統一するなどが有効です。また、初回商談では「課題の顕在化→影響額→期限→次アクション」の流れをテンプレート化し、温度感が低い案件は自動でナーチャリング施策へ振り分ける仕組みを整えることで、FSのリソースを有効商談に集中させることができます。
⑥受注率が低い場合
有効商談まで進んでも成約に至らない場合、クロージングフェーズに課題があります。
考えられる課題
- 価格競争力の不足:競合と比較して価格が高く、その差を埋めるだけの価値訴求ができていない可能性があります。
- 提案力・クロージング力の不足:顧客の懸念を払拭できず、最終決断を促せていない可能性があります。
- 競合への敗北:機能面、導入実績、サポート体制などで競合に劣っている、または競合の営業力に負けている可能性があります。
- 社内稟議のハードル:顧客社内での承認プロセスを支援できず、稟議で却下されている可能性があります。
⑦平均受注金額が低い場合
受注はできているが金額が小さい場合、案件の質またはアップセル・クロスセルに課題があります。
考えられるボトルネック
- アップセル・クロスセルの機会損失:追加提案の機会を逃している、または適切なタイミングで追加提案ができていない可能性があります。
- ターゲット企業規模の問題:小規模企業ばかりにアプローチしており、大型案件を取れる企業にリーチできていない可能性があります。
- 初期契約の縮小傾向:顧客が「まず小さく始めたい」という姿勢を崩せず、フルスコープでの導入提案ができていない可能性があります。
- 価値訴求の弱さ:製品・サービスの本来の価値を伝えきれず、値引き要求に応じてしまっている可能性があります。
まとめ
ここまで見てきたように、PassworkおよびAny2Tabを活用することで、Account EngagementとSalesforceのデータを統合し、Tableauで高度なファネル分析ダッシュボードを構築することが可能です。
ファネル可視化ダッシュボードの最大の価値は、単に数値を見るだけでなく、「どのステージで問題が発生しているか」を特定し、「その原因として何が考えられるか」を推測できる点にあります。Visitor数の減少であればコンテンツマーケティングやSEOの見直し、リード化率の低下であればナーチャリングシナリオの改善、受注率の低下であればクロージング力の強化といったように、データに基づいた具体的な改善アクションにつなげることができます。
従来、MAとCRMのデータが分断されていたために難しかった「ファネル全体の可視化」「マーケティングROIの証明」「ボトルネックの特定」が、このダッシュボードによって実現できます。
マーケティングから受注までの一気通貫の分析は、データドリブンな経営判断を行う上で不可欠です。Account EngagementとSalesforceをご利用中で、ファネル分析に課題をお持ちの企業様は、ぜひ本パッケージの導入をご検討ください。



